「くすり」と「ドラッグ」は紙一重

寺岡内科医院 院長の元気塾202205少し前まで日本人のクスリ好きは有名でした。幸いなことに今でも処方された薬に対する信頼は厚いと思いますが、クスリの英語訳のドラッグとなると何か怪しいイメージがあります。薬は使い方によっては毒にもクスリにもなるということです。例えば人を死に至らしめるトリカブトという毒草は心臓を元気にする漢方薬になりますし、テングタケの毒は副交感神経を刺激し、その派生物は非常に有益な生理作用をもたらしてくれています。太古の昔から新型コロナの今日まで人類のクスリ、毒への関心は尽きることがありません。

固い話で恐縮ですが、普通の診療所、病院がおこなっている保険診療というのは、国民から集めた保険基金と政府補助金を使って診療費を補助してくれるというシステムですが、用いられる医薬品や医療行為は、厚労省がメーカーの治験データをもとに有益であると認めたものに限られていて、私達保険医療機関は厚労省が認可した医薬品、医療技術だけを用いて診療する決まりになっています。一部例外はあるのですが…。

医薬品の開発段階では、この薬品は○○、△△の病気に効果があり、副作用はこれだけ少ないというデータ集めをすることになります。いわゆる治験です。有益と認められ保険採用が認可されると「この薬の適応病名は○○、△△にだけ」という条件が課されることになります。

そこでその薬品の主目的以外の良い働き(仮に別作用とします)にはあまり深入りしないというのが通例です。でもそこに面白い効果が残っていることがあり、後になって再び注目されるということがあるのが面白いところです。

たとえば抗アレルギー薬です。眠気の副作用が有名です。どの抗アレルギー薬にも大なり小なりあるものです。そこで眠気を利用してみてはというアイデアから睡眠薬として用いられるアレルギー薬もあります。

たとえば麻薬があります。主作用の鎮痛効果、快楽作用はつとに有名ですが、咳が抑えられる、呼吸困難を忘れさせるという別作用もあります。そこから派生してよく効いて中毒性のない鎮咳薬がうまれました。血圧を下げる降圧剤があります。いろんな種類があり、あるものは狭心症に効き、あるものは脈を下げ、あるものは前立腺肥大を押さえ、あるものは振るえを止め、あるものは利尿効果でむくみを取るなど、いろんな効果をもたらしてくれています。そこで主作用+別作用で選択されるということが常識となっています。

面白いのは認知症の薬です。精神活動を高めるのですが、普通の人が飲むと疲れを忘れ、排尿促進、鼻閉改善、男性機能亢進という事もあります。私の好みの胃薬は、ムカつきを抑え胃の粘膜を守る働きがありますが、別作用として精神の安らぎをもたらしてくれます。そこで不安が強い神経症にも使われることになります。ただ人によってはお乳が張ったり生理が変化したりと、まるでホルモンのような働きもするので脳の中枢に働いていることが分ります。 

最近で大変嬉しい別作用をもたらしてくれた糖尿病薬をご紹介しましょう。腎臓から余分なブドウ糖を放出させ、血糖値の低下を狙ったお薬です。糖が水を引き連れて出ますから利尿効果があります。全身のむくみが減り、心臓、腎臓の機能低下した人には有効だとは分かっていました。ところがそればかりでなく心筋の力を高める効果が分って来て、最近心不全にも適応を取ったという次第です。そのほか遺伝子に働いて細胞を若返らせ、体重減少にも効果があるということまで取りざたされています。ということで本来の糖尿病薬からはなれた領域で効果を発揮してゆきそうな勢いです。

以上はあくまで一部の例ですが、どの医師にも好みの医薬品があるもので、こんな別作用が関係しているのかも知れません。私の場合なるべく新薬は自分で試すことにしており、主作用以外の別作用にアンテナを張っているつもりです。 

最近では処方された薬の内容をインターネットで検索する方がおられますが、ネットでは出てこない薬の効果というものがある事もご理解ください。

話は替わりますが、今、帯状疱疹と若い女性の咳喘息が多くなっているように感じます。ワクチン先進国での感染爆発もワクチンとの関係が気になります。