「身体の声に耳を傾けましょう」(腸について)

寺岡内科医院 院長の元気塾202504お彼岸が終わり東三国でもちらほら花が咲き始めました。春はやはり嬉しいものですね。
先月は「皮膚の感覚」が生きる上で非常に大事だということをお話しました。今月は「脳」と内臓感覚ということで「胃腸」に注目し、その深い関係について考えてみたいと思います。

これまで「脳」は情報処理の場所、「胃腸」は消化と吸収の場所であって機能的にはあまり関係はないと従来考えられてきましたが、近年「腸は第二の脳である」といわれるようになりました。さらには「脳を支配する」とさえいわれます。そのわけをご紹介したいと思います。                

脊椎動物である私たちの5億年前のご先祖はホヤのようなものでした。外皮と消化管だけです。その後、消化管から内臓、神経系、脳が発生しました。ですから腸の神経系の方が脳よりも先輩ということになります。密接な関係がないはずがありません。「腹が立つ」「腹黒い」「吐き気がする」などといいますが、そんな関係性を表現しているのかもしれませんね。解剖学的には胃腸全域に神経網が張り巡らされ脳につながっていて、「脳」と「腸」はたえず連絡し合っています。

例えば嫌なことがあったり腐ったものを食べると吐き気がするのです。緊張すると下痢をする人がいますし、ストレスで胃潰瘍が出来る人もあります。これなどは「脳」が胃腸の働きを支配している例ですが、逆に「腸」からの情報が脳に大きな影響を及ぼすことも知られています。「腸」の状態が良いと気分も良いのです。セロトニンというホルモンがありますが、ハグしたりゆらゆらと踊ったりすると脳でセロトニンが分泌されます。するとホッとする幸せ感が生まれます。気分が良いのです。

実は体全体のセロトニンの95%は腸で産生消費されていて、腸の働きが良くなり消化吸収が高まります。腸の機嫌がよくなると副交感神経を介して脳がホッとするという風につながります。セロトニンが脳と腸を動かせていて、分泌が悪いとうつ病、便秘になることが理解できます。セロトニンの原料は魚や肉、大豆食品に多いトリプトフアン、ビタミンB6などです。

近年「腸内細菌叢(ソウ)」という言葉をよく耳にします。腸内には100兆個の善玉菌、悪玉菌、日和見菌のばい菌が住み着いていて最適の腸内環境を保っています。これを「腸」の神経系はモニターしていて情報を脳に届け、その結果、善玉菌が多く悪玉菌が少ないときには「こころ」が健康に、逆に「心」の状態が悪くなると悪玉菌が多くなるという現象が知られています。うつ、ストレスの話です。それはそのまま体調につながります。ある研究では特定の菌が多いと積極的にも臆病にもなるそうで、何かの食べ物を好む菌が増えるとその情報は脳に届き、人間はそれを食べさせられることになる、という面白い研究もあります。

腸には100億個の神経細胞が存在し、腸内情報を脳に情報を伝えているばかりでなく、消化吸収がスムーズに流れるように、いくつもの消化管ホルモンを整然と分泌して各臓器に指令を出している、という自動性があることも分かっています。そんな具合で「腸は第二の脳である」ともいわれるのです。おろそかに考えてはいけません。

善玉菌が多い腸内環境(=「腸内細菌叢(ソウ)」が良い)では腸内はやや酸性となり、悪玉菌や感染症の原因となる細菌やウイルスの増殖が防がれ、心も健康になるということになります。

それでは善玉菌の多い腸内環境(=腸内細菌叢(ソウ))が良いことはどのように分かるのでしょう。それは褐色の、バナナのようなお通じが毎日ある、便秘や下痢がない、臭くないなどで分かります。

そこで善玉菌を多くするにはどうすればよいかといいますと、日本人なら日本食に尽きると思います。善玉菌の餌である発酵食品、たとえば味噌、納豆、キムチ、ヨーグルトも良いですね、玉ねぎ、ニンニク、バナナ、牛蒡、大豆などのオリゴ糖食品、食物繊維の多い昆布、ヒジキ、キノコ、玄米などの自然食品がよろしいと思います。日本食は世界に誇るべき健康食なのです。

腸の健康が心の健康につながり、運気が上がり、ひいては幸福につながるということでしょう。