イタリアの片田舎?、マフィアの島へ
地中海のシチリア島に行ってきました。ところで50年前の「ゴッドファーザー」という映画をご存じでしょうか。今や大御所、当時無名のアル・パチーノを一流に育て上げた名画でした。
テーマソング「ゴッドファーザー愛のテーマ」はロマンチックな哀愁をおびた名曲で、皆様も「ああ、この曲か」と一度ならずお聴きになったことがあると思います。ニューヨークのイタリアマフィア、コルレオーニ一家の勃興と終焉を描いたギャング映画ですが、名監督のフランシス・コッポラの耽美的な映像で数々の陰惨な殺人シーンさえも「殺人の美学」と賞され、ニーノ・ロータの深い音楽性も相まって、ギャング映画とは思えない味わい深い名画となりました。
ギャングといえばいつも裏社会の嫌われ者という概念が一般的ですが、彼らにも信じるキリストがあり、家族愛があり、信頼があり、喜び悲しみがあることが新鮮な驚きでした。古い教会、古典的なローマ風の建物の裏には哀愁を帯びた音楽が流れ、主役のマーロン・ブランドの名演もあって一種貴族的な映画でした。当時私も多感な若者でしたから、残酷さとヨーロッパの古典美、音楽美はいまだに私を魅了し続けています。
アル・パチーノ演じる末っ子マイケルがどのようにギャングのドンに変わってゆくのかがパート1の見所です。一家存続のために殺人を犯したマイケルが逃亡したのが父親の出身地シチリア島でした。それも警察署長と敵のドンをやったのですからひどい話ではあります。映画の中の山上の村と古い教会、朴訥な村人たち、ロバが荷物を運ぶ景色が残っていることを信じて今年はシチリア島に決めました。
シチリア島といえばハイヒール型のイタリア半島のつま先の前にくっついた岩のような島ですが、九州くらいの大きさがあります。旧都パレルモは人口100万人の大都会です。朝夕は結構バスやマイカーで混みあうのですが、一歩外れると本物の石造りの古い街並が続きます。王国だったこともあり、古い教会やオペラ劇場、宮殿、公園の荘大さといったら場違いにも思えるくらい豪華です。日本にこんな立派な建物群は望むべくもありません。ここは古代ギリシャの植民地であり、郊外に出ればギリシャ神殿、野外劇場跡などがいくつも残っていて、いやでも2000年の歴史を見せつけられます。
教会を中心とする街づくりの壮大さはローマ文明そのものです。古い建物には必ず彫像が民衆を見下ろしていて、人々は活気があって嬉しそうです。そこには歴史、宗教、文化の迫力にすっかり圧倒されてしまった先進国?出身の日本人がいました。
夜になると街並みは美しさを増します。雨で光る石畳の路地に点在するレストラン、バーの明かりのなんと魅惑的なことでしょう。一画の高級レストランでディナー。400年前の倉庫を改造した隠れ家風のレストランなのですが、レンガ造りで昨日今日のお店ではありません。一部はローマ建築の名残のようです。シーフードが中心ですがイタリアン好きの日本人にはたまりません。少しオリーブオイル香が強いくらいでしょうか。形は違え古代の住民も同じ食事をしていたと想うと歴史の一頁に溶け込む思いです。夜の街にマフィアの影はありません。
海岸添いのずいぶん高い所を走る高速道路を3時間、海峡の町メッシーナに向かいます。道中さすがに人口蜜度は低く、海と山と荒れ地ばかりで町はほとんどありません。ふと見上げると高い山の上に大きな町があったりします。200m~400mというところでしょうか。外敵の侵入を阻むためだそうです。
メッシーナから見たイタリア本土はすぐ目の前、その幅3.1Kmだそうですがフェリーでしか渡れません。明石海峡を知っている私たちは鉄橋かトンネルでも作ればよいのにと考えますが、そうは出来ない事情があるといいます。そこに現代のマフィア=経済マフィアが絡んでいるらしいのです。(次回に続く)