イタリアの片田舎?、マフィアの島へ②
シチリア島は田舎と期待していましたが、とんでもない!実は幾多の文明が交差した地中海銀座ともいえる要衝でした。この地をめぐって古代からフェニキア、ギリシャ、ローマ、イスラム、スペイン、フランスばかりか北方のゲルマン、ロシアまで加わって覇権を争い続けて来たというのですから、それだけ魅力的な土地だったということでしょう。
建物はギリシャ・ローマ風であったり、ビザンチン風であったり、イスラム風であったりして、混ざり合った文化も大変興味深いものがあります。太陽がさんさん、気候は温暖、果物は良く育ち、海の幸豊かで風光明媚な要衝地を誰もが欲したのは当然でした。従って政情は不安定だったようです。そこで民衆は自分たちを守るために自衛団を作らざるをえなかったのでしょう。一説には13世紀フランスの支配に抵抗して作られた地下組織がマフィアの原型ともいわれますが、多くはイタリア統一前の19世紀政情不安を背景に、地方領主の武力組織として生まれたということですから、当然貴族社会とも深い関わりを持っています。実は名匠コッポラ監督はイタリア貴族の末裔で、マフィアと関係が深かったからこそ、あのような内面的映画を作れたそうです。
ところでシチリア島になぜ橋がかからないのかというと南北問題があります。縦に長いイタリアですが、産業と富はローマ、ミラノ、フィレンツェと北部に集中していて、南部は農漁業が中心で貧しく、橋を架けても多くの経済効果を望めないそうです。仮に大きな資本を投下しても地元勢力が強すぎて物事が進みにくい、中抜きされてしまう、などの問題があるといいますから、どうもここにマフィアが絡んでいそうです。シチリアには90ものファミリーが今も存在し、1990年代まではギャング映画さながらの抗争も多かったそうですが、現在は恐喝、汚職、補助金不正、麻薬、建設、不動産開発といったように経済マフィア化しているそうですから、日本の裏社会と似たところがあります。特にシチリア人は愛郷心と独立心がとても強いそうですから、その影響力はなかなか根深そうです。
そんなことを考えながらメッシーナから地中海沿いに電車で30分、浜辺にたたずむタオルミーナ駅に到着です。ここはなぜかイスラム建築で実にかわいい。この駅だけでも十分見ごたえがあります。でも目的地タオルミーナの街は遥か200mも頭上、崖の上です。こんな高いところではさぞかし不便だろうと思いますが、海からの侵略が絶えなかった歴史の証ですし、だからこそ第一級の観光地になったといえます。ただタクシーで1回登り降りするのに2000円は痛いです。
メインストリートは外国人観光客でいっぱいで、ここもオーバーツーリズムだそうです。第一の目玉、古代ギリシャの円形劇場は崖の上です。舞台を中心にすり鉢型の観客席が取り囲み、座ると舞台の遥か上方にはヨーロッパ最大の火山エトナ山が噴煙をたなびかせ(つい先日大噴火を起こしました)、すそ野は地中海につながってゆきます。近くに目を移すと、はるか下方にナクソス港の町並みを見下ろす、という具合で、2000年前のギリシャ・ローマ人たちの文明、美意識、に驚愕です。すごいとしか言えません。この頃日本は弥生時代とは!
日差しは強いのですが日陰に入ると海から吹き上げる風が涼しくて、オレンジをつぶした本物ジュースのおいしさは格別です。夜の街も魅力的です。どこの石畳の小道もきれいに清掃されていて安心して細い路地にも迷い込めるのです。個性的な小さなレストランたちが誘惑します。眼下の地中海とエトナ山に沈む金色の夕日を眺めながら、シーフードと白ワインをいただきます。これぞ本場のイタリアン、マフィアのことなどすっかり忘れて甘美なタオルミーナの夜は更けてゆくのです。・・後でふと気づきました。争いを見たことがないし一人の警察官を見たこともありません。この安心感の根拠は何なのか?・・ひょっとすると裏の勢力が取り仕切ってる?・・・これも自治力かと思ったことでした。
【結論】シチリアは、ど田舎という予想はみごとに裏切られ、壮大な文化と深い歴史を秘めたヨーロッパ文明の粋でした。観光客にマフィアは見えませんでした。映画「ゴッドファーザー」のロバはいませんでした。



