外科医に大きな変化…内視鏡手術のメリット

寺岡内科医院 院長の元気塾202410今日の外科手術はすっかり様変わりしました。
胸や腹の手術では内視鏡手術が優先され、施設によって差はありますが約70%以上になっています。従来のような体を切り開く手術はむしろ特殊にケースなってしまいました。少し内視鏡手術をのぞいてみましょう。
 
例えば腹部の手術です。まず腹壁に1㎝程度の穴を3~5箇所開けます。まずここから炭酸ガスを吹き込んでお腹を膨らませませ、内臓全体を見渡せる内視鏡を挿入し画像をモニターに映し出します。次に遠隔操作のための長い金属棒を2、3本入れます。金属棒の先はチョキに似た鉗子(ハサミ)がついていて、これで糸をつまんだり組織をはさんだり切ったりします。家で狭い所に落ちたものをはさんで拾う道具がありますが原理は一緒です。これで血管や繊維組織を処理しながら病巣めざして少しずつ切り進みます。最大の危険性は出血です。大出血が起こると全体が血の海で見えなくなり、手術どころではなく命の危険さえ生じます。血管を糸で縛り止血しながら切り進みます。モニターを見ながら左右2本以上の長い鉗子越しで操作するのですから大変根気のいる話です。もし大出血となればその場で開腹手術に切り替える必要があります。ですから開腹手術が出来る準備も力量も当然必要とされるのです。神経にも十分気をつけなければいけません。切ってしまうと臓器の機能が大きく失われてしまうのです。こんなことを狭い視野の中で遅々と行うのですから時間もかかりますし、よほどの熟練が必要です。

医師の疲労は大きいことがお分かりいただけることでしょう。こんな手術の光景は、何人もの術者と照明灯が傷口を取り囲んだ昔の姿とは様変わりしていて、モニター中心の現実感の少ない遠隔操作の連続に映ります。

でもそのメリットは患者さんにとっては膨大といえます。まず手術による痛みや体力の消耗が少なくなり安静期間が大幅に短縮されます。簡単な手術では翌日から歩かされるくらいです。昔は手術といえば最低2週間、長ければ1か月入院というのが当たり前でした。今では1週間の入院が当たり前になっています。入院期間の短縮ばかりでなく入院費用の削減も期待されますし、安静を続けることによる筋肉減少、フレイル(筋肉不動による全身衰弱)、認知症の悪化を防ぐことも期待されるのです。高齢者には大きな問題です。またリモートワークの時代ですから翌日から病室で仕事も続けられそうです。

もう50年以上前になります。わたしが浪人生の頃、「浪速大学付属病院」を舞台にした「白い巨頭」という映画が大ヒットしました。田宮二郎が扮する新進気鋭の外科助教授(本当にカッコよかった。)「財前五郎」がギラギラの野心で成り上がってゆく過程を描いたものでしたが、教授選のドロドロ、学閥の争いなどが赤裸々に描かれ、愛人の新地のママまでも参加するのですから、さすが大きな大学の医学部教授は違うなぁと変に納得したものです。その「財前五郎」の専門が当時一番死亡が多かった胃ガンだったのも時代の反映でした。現在は胃がんによる死亡は男性で3位、女性で5位というくらい減っています。1位、2位は肺がん、大腸がんで、時代の変化を感じます。思えば切った貼ったの時代でした。実はわたしも外科医にあこがれていたのですが、長時間立っていると腰が痛くなるのであきらめた覚えがあります。

癌で亡くなる人が最も多い日本で、絶対必要な外科医学界にいま異変が起きています。外科医が減っているのです。その理由は長時間緊張を強いられること、きつく、汚く、危険な、いわゆる3K職場であること、しんどい割に報われないこと、患者の容体次第で長時間働拘束されることなどがありますが、女性医師の増加もその原因といわれます。「働き方改革」になかなかなじめない職場なのです。それでも使命感に燃えて立派な外科医になりたい若者がいることも事実です。もし皆様が外科医にお世話になられることがあれば、その立派な志を汲んで尊敬して差し上げていただきたいと思います。