日本の原風景、里山の秋

寺岡内科医院 院長の元気塾202210わたしはこの時期になるとワクワクしてくるのです。空は高く澄み渡り、山里にそよぐ秋風、色づいた稲穂、風にゆれる川ススキ、冷たい清水、赤や黄色に色づいた山々の紅葉が目の前に浮かびます。梨、お米、栗、柿、マツタケ、大豆、山芋、あけび、あらゆる山の幸が待っています。大自然の恵みを心から有難いと感謝できるこの季節です。実は私には具体的な景色が見えています。それは篠山の町です。あのデカンショ節の里、きっと地名くらいはご存知でしょう。

大坂城攻撃のために徳川家康の命によって築かれた城とお堀を中心に町が広がります。そこかしこに江戸時代そのままの街並み、横丁があり、路地を曲がったらお侍と出会うかもしれないタイムスリップ感があります。灘の生一本を造り続けた丹波杜氏の故郷でもあり、今も秀月、鳳鳴という美味い地酒が心をこめて造られています。ここは土地が肥えているのでしょう、旨いものがそろっています。黒豆、松茸、山芋、栗、柿、お米、脂ののったシシ肉でボタン鍋、味噌仕立て具沢山のデカンショうどん、丹波牛と松茸のすき焼、と名物料理が一杯あります。
極寒の冬にいただく地酒の熱燗など、五臓六腑に浸み渡るとはこのことです。思い出すだけで唾が出そう…。

日本六古窯の一つ、立杭焼のふるさとはほど近く、今も山あいの村里に登り窯が並び、若い作家も次々と意欲的な作品を生み出しています。うれしいことに年々観光客が増え、「やきもの祭り」ともなると交通渋滞するほどになりました。
私にとって日本の原風景というのは、1)城跡、お堀があって 2)昔のままの町並み 3)よいお酒 3)よい和菓子4)名物料理 5)よい蕎麦 6)よい温泉 7)土地の焼き物 8)伝統を受け継ぐ文化 9)美しい山々 10)きれいな川、などの条件がありますが、全てそろっているのが篠山なのです。
ここは私にとって心のふるさとです。

50年も前に私が通い始めたころはただ寂れた古い町でしたが、ようやく都会の人もその魅力に気づいたようで、古さを前面に押し出して観光開発がされだしました。役場跡の大正ロマン館などがその一例です。近年若者のレトロブームで、古民家イタリアンレストラン、古民家ホテル、喫茶店、雑貨店、アート店、などがあちこちに立ち並び、来訪者の目を楽しませてくれます。大阪から車でたった1時間でこんな別天地に遠慮なく身を置くことが出来るのですから、町全体が私にとっての宝物のようなものです。

こんな晩秋の一日の夕暮れ時、お城の石垣に腰掛け、夕日が輝きながら音もなく山並みに沈んでゆくのをただ眺めていることがあります。たなびく雲の群れに夕日が赤や金色に照り映え、残照の中を勤めを終えた鳥の群れがカーカーと声をかけながらねぐらへ帰ってゆきます。どこかで藁を燃やす匂いが…。いつの間にか青空は紺から群青色へと変わり、夕闇に包まれて家々に明かりが灯っています。少し肌寒くもあり…。こんな景色を二人でただ眺めている。これが至福の時間なのです。…こう書いているうちに目頭が熱くなりました。私の人生も錦の秋まっただ中です。

話変わって、ようやくコロナ騒ぎが落ち着く気配です。国もコロナ患者の全数把握の無意味をようやく理解したようで、重症者や高齢者者に限って届け出るよう簡略化されました。実質上感染症5類への格下げです。インフルエンザ並みということです。マスクが外れるのも間近でしょう。これからはインフルエンザが話題になりますが、「ウイルス干渉」という用語があり、「複数のウィルスは同時に大流行しない。」ことになっています。インフルエンザが流行ることになれば、コロナは終息したことになり、むしろその方が変な安心感があります。「コロナ第8波阻止のためインフルがんばれ。」といったら叱られますでしょうか。