お料理、元気、脳力アップ、免疫力アップ、男と女。

寺岡内科医院 院長の元気塾202307面白い研究があります。東北大の川島グループと大阪ガスの共同研究で、お料理することを習慣つけると、前頭葉の血流が良くなり脳機能が向上し認知症の予防につながるかも知れないというのです。前頭葉というと、予想、計測、計算、決断、社会性、言語といった人間らしい機能の源泉となる場所です。人類では他の動物に比べとくに発達しており大脳の30%を占める大事な部分です。料理と大脳機能の関係はどうなっているのでしょう。ここで皆さんは思い当たることがありませんでしょうか。腕の良い職人さんのことです。

たとえば私がひいきにしている割烹やさんの大将がそうです。未明から深夜まで、当日の献立に始まり、下ごしらえ、味付け、食器の手配など、ずっと頭の使い通しです。季節に合った当日材料の特徴と良しあし、仕入れ値段、天候と客足の予想、従業員の配置、目で見ての美しさ、客を楽しませる会話、まさに「理を料る(はかる)」作業の連続です。その上、立ち通し、動き通しの一日です。覚悟がなければ続かない仕事です。まさに総合芸術といえます。彼の前頭葉はさぞ活性化されていることだろうと想像します。

人間の身体というものは、使えば発達し使わないと衰えるものです。筋肉然り、脳も然りです。したがって、頭を使う人は頭が良く維持され、そうでない人はそれなりに、となるのは必定です。どうせなら頭が生き生きの方を選びたいものです。

現役世代のころは誰もが生きるのに必死で、男女問わず頭と体を十分に使っておられるので今日の姿がおありなのだと思います。

ところが子供の手が離れ責任世代終を終えると安心、満足のあまり、物事への動機が減退してゆくのも自然な流れかもしれません。特に男性諸氏では「やれやれ」と思うことが許される社会通念があります。そこで油断していてはもったいないのです。人生100年時代といわれます。いつまでも頭は現役でいたいものです。好きなことに打ち込んでも良い、社会奉仕も良い、家事も良い、田舎で百姓するのもカッコよいではありませんか。とにかく関心事を増やすのです。好きな所で頭と体を活性化すればよいのでしょう。

その点、女性は少し事情が異なるようです。ご主人が退職後も、炊事、洗濯、掃除、買い物、付き合い、主人の世話、子供、孫の世話、通帳の管理(古い!)、生活のすべてを奥さんが採り仕切ることになります。実に大変なことをしていただくわけで頭が下がりますが、逆にこれで頭と体と活性化する原因となるメリットもありそうに思います。(先進国でこんなに献身を続けてくれるのは日本だけでしょうね。男性としては日本に生まれて幸せです。)そんなところから「カミさん」といわれるのでしょうか。そのうえ女性がお得意のおしゃべりがありますね。おしゃべりというのもかなり頭を使う作業だと思います。思いついたことを言語にして(本能的に)、主旨が一貫するように整理し(適当に)、(適当に)発した言葉を耳で聞き、修正しながら相手の顔色を見ながら表情まで変えて、別に結論を出すことはなく、ただ時をうまく紡ぐことがお上手です。というようなことはAIにもまねの出来ない高等な作業に違いありません。そういう意味でおしゃべりすることは良い頭を保つ条件の一つのようです。男性より5才も平均寿命が長いのも、こんなところに原因があるのかも知れないと思ってしまいます。

いろんなところでお年寄りと接する機会が多い私ですが、老人ホームでの光景が印象に残ります。女性はいつもグループを組んで、いつも何やかやとおしゃべりしておられるのに対し、多くの男性陣はいつも斜め上を見つめて孤独なのです。自分から進んで話しかける人という人は殆どいません。あっても、若い頃の仕事の話、戦争の話が中心で、どうも現在進行形のお話は苦手のように見えます。これでは話の輪は広がりそうにはありません。私も含めて男性というのは一旦組織を離れるとコミュニケーションが下手なように出来ているようですね。そこで前述のようなアドバイスとなります。

脳が活性化すると言うことは、身体がいきいきと動くことにつながります。筋肉と脳と免疫力の関係も次第に明らかになってきています。ということは癌や感染症にかかりにくいと言うことでもあります。いつも頭を使いながら、人様に喜んでもらえるような技を一生続けられたら、いつまでも元気でおれそうな気がします。