「お薬の飲み方」の自由度
今回は「お薬の飲み方」というお話しをさせていただきます。どこの病医院でも薬が処方されるのですが、特殊な薬以外は1日3回(毎食後)とか1日1回(朝食後/夕食後)といったように、「食後に服用するように」という指示が圧倒的に多いものです。
例えば風邪などの場合は3種類のお薬を朝・昼・夕の食後に服用することが多いですし、高血圧などでは朝食後に1錠だけ服用、あるいは朝夕の食後というような処方が多いのです。それでは「なぜ食後なのか?」と問われると、医者も一瞬たじろいでしまいます。慣習的にそうやっているというのが大方のところですが少し深く考えてみます。
「食後」について理由付けするとすれば、主に2つの理由があります。一つの理由は、薬というのはあくまで化学品なので、仮にそれで胃粘膜を荒らす可能性があっても、胃の中に未消化の食物が残っていれば、薄められて胃粘膜に影響しないだろうというのと、ゆっくり吸収されて体にも良いだろうし、その分効果も長いのではないかと考えるのが一つです。
この考えに沿って出されるのが鎮痛解熱薬というジャンルのもので、よく知られたところでは、アスピリン、ロキソニン、ボルタレンなどの鎮痛薬があります。単独で飲むと実際よく胃が荒れるのです。またあらゆる炎症を抑え込むことが出来るステロイド薬なども同じ理由で「食後」と処方されます。
二つ目の理由は、少し従来がっかりされるかもしれませんが、「薬を飲むことを忘れないため」という単純な理由です。昔から「薬は食後」という通念に乗っかっているということです。
平均的な食生活の人は毎日、朝は6時~8時頃、昼は12時~2時頃、夜は7時~9時頃に食事を摂られていますので、だいたい5~7時間毎に均等に薬を飲んでもらえることが期待出来るので、薬の効果をほぼ一日24時間、カバーすることが出来るというメリットがあります。
実際のところ処方の90%以上は、分3/毎食後(一日分を3回分に分けて毎食後)、分2/朝・夕食後という形で出されています。以上が「食後」の考察ですが、実際のところは、そんなことをあまり気にせず、問題の少ない「分3/分2、〇〇後服用」とすることが多いように思います。
ところが時には思いがけないことがあり、キッチリ指示を守るあまり「朝ご飯を食べなかったので朝食後の薬は飲みませんでした」ということがあるのです。皆様はどう判断されるでしょうか?
あまり重要でない薬ならそれでも良いのですが、一日1回という重要な薬や胃に悪影響しない高血圧薬、胃潰瘍薬、などの場合では、主治医としては「…食事をしなくても飲んでほしかった。昼に回してもらえば良かった」いうようなことが多いのです。但しこれも場合によりますので、服用をためらわれたときには、上に述べたような「食後」の理由と薬の内容、重要性をよくお考えいただいて判断していただきたいということです。もし迷われた場合には処方された薬局か主治医にぜひお尋ねいただきたいと思います。
次に珍しい処方ですが「食前」についての考察です。「食前」というのは「食事の前30分の空腹時」という意味がありますが、これには深い理由があります。ひとつには空腹状態の胃でないと吸収されにくい薬であると いう理由があり、例えば骨粗しょう症薬、漢方薬があります。
もう一つの理由は「食前」でないと意味が無いというものです。その多くは「糖尿病薬」です。食前に服用することで、後から消化物が下りてくる前に糖が吸収されにくい胃腸の状態を用意したり、前もってインスリン分泌の環境を整えておくという意味で必須の用法です。間違って「食後」に服用しても害はありませんが、ほとんど効果が期待できないことになってしまいます。
これに似た服用法として「食間、食後2時間」という処方がありますが、主目的は空になった胃粘膜を守るという意味合いが強く、強力な胃潰瘍薬が無かった頃の処方だと思います。吸収をよくする目的もありますが「食前」と同じ意味でしょう。
その他服用法として「時間指定」「頓服」という処方があります。これはご存じの通りその時間に効いてほしい場合に用いられます。例えば睡眠薬、便秘薬、鎮痛薬、利尿薬などです。また重要なのは、抗がん剤や抗ウィルス薬などのように一日中効果が続いてほしい場合などにも指示されますのでぜひ守りたい「処方」ということになります。
最後に長時間作用型の薬についてです。最近では製薬技術が進み、患者さんの負担を減らす目的で長時間作用型の薬が多く出回るようになりました。一日1回、1週間に1回、中には1か月に1回というのもあります。これらは1回の服薬でそれだけ有効なのですから、服用の機会である時刻、日時、月日が多少ずれても目的は達するということになりますので、薬の内容と目的をご理解いただいたうえでご判断されたらよろしいと思います。
いくらきっちりと服薬を守るつもりでいても、日常生活の中では服薬できない場面が生じることは避けられません。どうしても残薬が出来てしまうのですが、風邪薬のような短期薬であれば後で使うこともあり得ると思いますが、定期薬のような月単位の薬ですと何十錠も残ってしまって、このことを主治医にいうと叱られると心配されて黙っている患者さんも少なからずおありかと思います。しかし何事にも無駄な医療費節減のかけ声が高い時代なのですから、主治医とよく相談されることをお薦めします。
また処方箋の出た薬局から代弁してもらうことも一つのアイデアです。薬局の意見が反映される今の時代なら有効な方法だと思いますよ。