ピロリ菌はご存じでしょうか。

寺岡内科医院 院長の元気塾202307HPと書いても「ホームページ」ではありません。
もともとは「ヘリコバクターピロリ菌(略してHP菌)」のことで、今では「ピロリ菌」という名前で一般の方もご存じのことが多いと思います。今回は少し硬いお話になります。

健康診断で内視鏡をうけられた結果報告書に「HP(+)」という形で記載されていることがありますが、これは「ピロリ菌」が見つかったということです。この菌が問題なのは、慢性胃炎、胃潰瘍、胃がんを起こすかもしれないという点にあります。

これまで胃がんとの関係で多くの研究がなされました。たとえばHP菌(+)の人と(-)の人の胃がん発生率を見ると5倍の開きがあったり、早期胃がん切除後にHP菌を除菌治療した場合としない場合では、除菌した方が新しい癌の発生率が1/3に抑えられることが分かって来て、今ではHP菌が胃がんの主な原因であると認識されるようになりました。

最近では胃潰瘍は薬物療法でほとんど改善するのであまり恐れられていませんが、胃がんについては根治療法は手術しかありませんので、健康診断で胃カメラを行い早期発見に努めるようになったのです。そこでの必須項目としてHP菌の有無が取り上げられるようになったのは、こういう背景があるからなのです。

普通、胃の中は胃液の塩酸によって細菌が住めない環境なのですが、唯一この菌は強酸の粘液中でも生きていられるという珍しい特徴があります。ウレアーゼという酵素が尿酸を餌にアルカリ性のアンモニアを生み出し、塩酸を中和するというわけです。1983年にオーストラリアの二人の研究者により発見され、ノーベル賞も受賞した比較的新しい細菌です。

ねじれた花梨糖の尻に5本の鞭がくっついているような形をしています。この鞭を振り回して、まるでヘリコプターのように粘液中を自由に走り回るという面白い行動をします。そこで粘膜の中に潜り込み人と共存しながら食い荒らしてゆきます。何十年という慢性胃炎の始まりです。

癌はこういう慢性炎症の中で発生します。細胞レベルで壊れては修繕、また壊れて修繕という事を繰り返すうちにDNAのコピーミスが起こり癌細胞が生まれるとされています。そこに濃い塩味の食事が続くと癌細胞の生育を促進し発がんに至るようです。目に見えない一つの癌細胞が倍々の増殖をくり返し、見える大きさなるになるまでに20年かかるとされています。見えるようになってからの拡大速度は倍々として目を見張るものがあります。

この菌は感染します。といっても感染力が弱いので生誕後2歳までです。おもな感染経路は不潔な井戸水、大人からの口移しが悪いとされていて、現代ではこんな風景は少なくなっているでしょうから、今後はピロリ菌感染は減少し胃がんの発生も減ってゆくだろうと予想されます。因みに日本人の高齢者のピロリ菌に対する抗体の保有率(感染歴の証明)は40%くらいで、これでも50年前の1/2に半減しているくらいです。これも近代化、核家族化の表われなのでしょう。

悪役のピロリ菌ですが、どうしたら発見できるかというと、いろいろな技術があります。

  ①血中の抗体を計る。
  ②吐いた息を集めてピロリ菌の産物を計る。
  ③胃粘膜を採取して顕微鏡で見る。
  ④採取した粘膜のウレアーゼ活性を計る。
  ⑤便中のピロリ菌を顕鏡する。

などの方法があり、場面場面で単独で、あるいは組み合わせて用いることができるようになっていますので、検出、経過観察の結果は信頼できるものといえます。

もしピロリ菌は発見されたら当然除菌をお薦めしたいのですが、残念ながら一番手短かなピロリ菌抗体が(+)であっても治療はできず、併せて内視鏡で胃潰瘍、慢性萎縮性胃炎が証明されない限り、保険は適用されないのが現状です。何かの折に自費でもピロリ菌抗体を検査されてはいかがでしょうか。なじみのかかりつけ医なら賛成してくれるかもしれません。

そこで胃カメラの場合にはこの菌を調べることが常識になっていますし、もし存在が確認されたら「除菌」といって2種類の抗生物質と制酸剤の合剤を1週間飲み続けることが標準治療となっています。一回の治療で90%の除菌が期待されますが、失敗しても抗生物質を変えた2次除菌治療が行われ、ここでも90%の除菌効果があることが分かっています。2回目までは保険が効きますので1回の治療で5000円以内の負担となります。これでもダメな場合にも、新たな編成でさらなる効果が期待されていますので、いつか除菌できるくらいに思っていただいてよろしいでしょう。

昔は日本人での癌の死亡は胃がんが男女ともに1位でしたが、現在の癌死の中では男性3位、女性5位とそれぞれ10%を占めていて、決して無視できない数となっています。こんなことで胃がんが予防できれば安いとは思われませんでしょうか。

*男性 
 ①肺がん  ②大腸がん  ③胃がん 
 ④膵臓がん ⑤肝臓がん

*女性 
 ①大腸がん ②肺がん   ③膵臓がん
 ④乳がん  ⑤胃がん