レントゲン被爆について

寺岡内科医院 院長の元気塾202606だれでも放射能や放射線を当てられるというのは気持ちの良いものではありません。痛くもかゆくもないのに体に毒だといわれると、なおさら不気味さが加わります。最近はどなたもレントゲン線はこの放射線の一種だというのはご存知なので、なるべくレントゲン撮影は避けたいと思われるようです。医師の方でも「正しい診断のためにレントゲンは撮りたいけれど、嫌がられる被爆は出来るだけ避けたい。」という葛藤が常にあります。特に若い女性の妊娠時や子供さんの場合には大変気を使います。今回は放射線障害について考えてみたいと思います。

その前に放射線って何でしょう。物理学では、光の仲間のうち波長の長い遠赤外線から始まり波長が段々短くなるにつれ、赤~黄~緑~青から紫の可視光線の帯域となり、さらに紫外線、X線、γ線などのすべて「光」の仲間=電磁波と定義されます。電波もその仲間ということになります。波長が短くなるほどエネルギーが強くなり、物体を透過する特性が現れ始めます。こんな性質を利用したのがX線診断であり、放射線治療であったりするのですが、DNAへの障害性ゆえに恐れられてもいるのです。特に細胞分裂期に感受性が高いので、若い細胞(癌細胞も含め)であったり生殖細胞ではその影響が懸念されます。 

それではどれだけ放射線を浴びると危険なのか? そのことを考える前に知っておかなければならないデータがあり、じつは地球上では「自然放射線」といって自然界から常に放射線を浴びているというのです。場所によって違うのですが、宇宙から、地球内部から、人体内部からも総量にして年間平均2ミリシーベルトという放射線を浴びているのです。地球上である限りこの線量は一生逃がれられません。

一方、胸部レントゲン1枚では0.02ミリシーベルトの被爆量ですから、「自然放射線」の2ミリシーベルトは年間100枚分のレントゲン写真をとっているのと同じことになります。さらに「自然放射線」の量は地域によって大きく異なり、通常の6倍もの線量を受けているインド/クララ地方では、胸部レントゲンを年間600枚も撮っていることになります。しかしこんな所でさえ放射線障害による白血病、癌、先天奇形、遺伝子病が多いということは全くありません。つまり年間600枚程度の胸部レントゲン撮影は全く安全だということです。

では人体への影響が出てくる放射線量はどのくらいなのでしょうか?放射線の感受性が最も高い骨髄、生殖腺でも、100ミリシーベルト以上(なんと胸部レントゲンの5000枚分以上)当たらないと影響は出ないことが証明されています。一番心配な妊娠初期のレントゲン撮影ですが、もっとも被爆線量の多い母体の注腸造影検査でも、胎児被爆量は10ミリシーベルトです。胎児被爆による先天奇形が自然発生率を上回るのは100ミリシーベルト以上から少し差が出始める程度ですから、腹部のレントゲン撮影でも先天性異常の心配は無いと言ってよろしいでしょう。それでは致死量はどうでしょうか。成人では一度に4~5シーベルトの被爆があると骨髄が破壊され、赤血球、白血球すべての血液細胞が生産されなくなって半数の人が死ぬことになります。でもこんなことは原子炉内の事故でしか起こりえないことです。
   
最近はCT検査が欠かすことのできない検査となっていますが、どれほどの被爆量があるのでしょうか。最もポピュラーな胸部・腹部CTの被爆量では1回当たり5~8ミリシーベルトですから、胸部レントゲンを250~400枚撮るのと同等ということになります。これまでCTを拒否された患者さんにお会いしたことがありませんし、実際放射線障害を起こした話など聴いたことがありません。CTでさえそれくらい安全性を実感できる放射線量なのです。


レントゲン博士が発明したレントゲン撮影、開発されてもう100年以上になりますが、安価でとびっきり診断的価値が高いので重要性は少しも衰えていません。その有用性を考えると、情緒的に恐れるのではなく理性的に判断することが大いに望まれます。たとえば4ミリシーベルトと4シーベルトの差がお判りでしょうか。医師はいつもそんなことを考えながらレントゲン撮影をお願いしています。