日本人の心、祈りの心

寺岡内科医院 院長の元気塾202212明けましておめでとうございます。皆様にとりまして素晴らしい新年でありますよう、お祈り申し上げます。

さて、初日の出といえば富士山。富士山といえば初夢ですね。新年にちなんで富士山が19世紀にフランス中心に西欧を席巻したジャポニズムと大いに関係があるというお話です。試しに富士山の東西の稜線を上に延長してみてください。尖った三角形が描けます。その形は何かに似てはいませんでしょうか。

そうパリのエッフェル塔です。そういえば3階部分までのラインは富士山にそっくりです。それは偶然ではありません。それもそのはず、塔を設計したエッフェル氏はジャポニズムの信奉者だったのです。安藤広重の浮世絵「富岳三十六景」に着想を得たことが分かっています。その証拠に彼はのちに浮世絵風の「エッフェル塔三十六景」という風景画を描かせてるくらいなのです。

世界で一番有名な絵画といえば、レオナルドダヴィンチの「モナリザ」でしょう。その次はというと… なんと葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」なのだそうです。大波に小舟がもてあそばれ、はるか遠くに富士山が見えるというあまりにも有名な浮世絵です。幕末のころ西欧で一大センセーションを起こしたジャポニズム、その火付け役となったのが浮世絵でした。日本から輸出されてきた陶磁器もさることながら、クッション材として使われていた用済みの浮世絵を見て西洋の人はびっくりしてしまったのです。塗り絵のような平面に、ものすごくデフォルメされた景色、ありえない色使い、生活する庶民、花鳥風月、虫が主題となりえる美術に天地がひっくり返るような衝撃を感じたのです。

「日本美術はサイコー!」とばかりフランス芸術界は沸き立ち、芸術家は競って日本美術に学ぼうとしたのです。その一人がモネです。ジベルニーの自邸に日本庭園を模して竹林や柳や藤を配し、池に浮かぶ睡蓮を終生のテーマとしたことは有名です。太鼓橋の絵はあまりに有名ですね。「睡蓮」は今も咲き続けています。彼の私室はまるで浮世絵展示室という趣です。ここを訪れる観光客に気兼ねしそうになります。

もう一人有名なのがゴッホ。ゴッホは惚れて惚れて何枚もの浮世絵を模写しています。有名な「ひまわり」も浮世絵に影響を受けて、花弁の輪郭を色で埋めるように平面的に描かれています、晩年アルルに移った時「ここは日本のように気持ちいい。」と、行ったこともない日本に終生あこがれを持ち続けました。

工芸にも影響がありました。ガラス工芸で有名なガレの花瓶には花や花鳥が大胆な構図で描かれていますし、アメリカのティファニーも蜘蛛やトンボを主題にした工芸品をつくりました。こんなことはそれまでの美術ではありえないテーマだったのです。

又、音楽にまで影響を与えました。ドビッシーの「海」はどなたも知っておられる名曲です。雄大で心安らぐ名曲ですね。なんとこの曲のモチーフは……葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」なのだそうです。こんなにまで評価してもらって有難い気がします。

このように日本美術は先進国で高く評価されているのですが、最近ではアニメの人気が世界的にすごい人気ですね。「ワンピース」「スラムダンク」「鬼滅の刃」などはアメリカでも大人気ですし、ジブリといったら「となりのトトロ」はじめ圧倒的で、「千と千尋」はアカデミー賞を獲得したくらいです。これらの現象はただのブームでは片づけられない価値感が底流にあるからだと思うのです。それは何でしょう。

端的に言うと日本文化には「多神教の世界」が展開し、物質的にも最高の文明を作っていることに感動があるということではないでしょうか。「万物すべてに神が宿る。」の世界です。スペインからの友人が「違う星に来たようだ。」といったことがあります。西欧人とは全く違う価値観で動いていることに驚いたのだと思います。それは「こころ」です。 工作機械会社で働いていた先輩は「外国の人は自分らが作った製品を足で蹴りよるけど、俺らはそんな事ようせんわ。」といいました。工事現場でも頭が下がることがあります。

道路にはみ出た工事では案内役が立ちますが、一旦停止の車に丁寧にお辞儀をしてくださいます。こんな国ほかにあるでしょうか。ひとえに工事という製品の質を高めるためを願っての行動であり文化ともいえます。工事にも魂が入っていることの表われです。世界で日本人が一番強く持っている価値観でしょう。

今世界は、「金だけ、今だけ、私だけ。」の「拝金グローバリズム一神教」が世界をリードしています。日本も危ういのですが、我々の心の中には「万物に神が宿る。」「お天道様がみている。」というグローバリズムと相いれない心があるのです、いつまでも祈りの心を持ち続けたいものです。しかしこれがこれから日本が世界に発信してゆくべき価値観だと思います。私たちはその担い手なのです。