認知症に効く薬は???

寺岡内科医院 院長の元気塾202504「アレッさっきまで持ってた財布、どこに置いたんやろ?」「2階に何を探しに来たんやったかなあ?」こんなふうに、最近、記憶力が低下し、「あれ認知症?」の一言が頭をかすめたこともおありだと思います。後で「ああ、そうやった!」といえたら加齢による正常範囲のもの忘れといえますし、これが「あの財布、誰かが盗みよったんや」「なんでここにいてるの?」と反応だと、ひょっとして・・・。もの忘れと認知症の違いはよくタンスにたとえられます。記憶のタンスを開けようとして、滑りが悪くて引き出しにくくなっているのが「もの忘れ」、そもそも中身が乏しくなっているのが「認知症」というわけです。

昔から老人ボケ/認知症はあったはずですが、昔は戦争や伝染病などで老年に達する前に亡くなる人が多かったので、あまり問題になりませんでした。ところが戦後、日本人の平均寿命が伸び、2025年には団塊の世代が全員後期高齢者となり、現在では65歳以上の人口が1/4を占めるという超高齢化社会となりました。老人数に比例して増加するのが認知症です。

全国的には60歳代では1.5%の人が認知症と診断され、70歳代では10%、80歳代では44%、90歳以上になるとなんと64%以上が認知症とされます。これは大変というわけで認知症の治療、予防、介護について国を挙げての大問題となっております。2016年に認知症初期集中支援事業といって認知症発見と早期治療をめざしたチームを各市町村に置いたのはそのあらわれです。私はそこで長くチーム員医師をやっておりました。

認知症にはパーキンソン病的なレビー小体型認知症(体や表情が硬化し動きが硬くなる。幻視がある)、モラルが崩壊する前頭側頭型認知症(従来の紳士が突然万引きをする、痴漢を働く)、失行障害を中心とした脳血管性認知症(ある日から急速に認知症が始まる)などいくつかの特徴的なタイプがありますが、ここでは全体の2/3をしめるアルツハイマー型認知症/いわゆる老人ボケについてお話してみます。この疾患は静かに始まります。

まず記憶の中枢である海馬が萎縮し始め、「さっき食べたことを忘れる」「きのう人に会ったことを忘れる」などの短期記憶と行動記憶の障害が始まります。次第に大脳皮質の萎縮へ進み、記憶力の低下、思考力の低下、見当識障害、言語障害、行動制限、などの症状となり、最後は人格崩壊人に至ります。解剖学的にはβアミロイドという老化物質が蓄積して脳細胞を取り囲み、栄養状態を悪くして次第に死滅させることが主な原因とされています。

2009年世界初の認知症薬アリセプトがエーザイから発売され、うまくすれば治るかもしれないと大きな期待が持たれましたが、数か月ほど進行を遅らせるというデータがあるものの、効果の実感の乏しさもあって現在は一時のような活況を呈しておりません。その後に出たメマリー、リバスタッチも同様でした。最近になって新しい薬が売り出され大きな話題となっています。エーザイの「レケンビ」という治療薬です。これは先ほどのβアミロイドに対する抗体で、これで原因物質を除こうというわけです。一部では大きな期待が寄せられているようですが、その実態を検証してみたいと思います。

まず特別な医療機関でβアミロイドMRI検査などの特殊な検査を受けた後、2週ごとに点滴注射を18か月続けます。一月の医療費は33万円で総額では600万円ということになりますが、7か月ほどの施設入所の遅延効果があるそうです。副作用は、めまい、吐き気、などの軽微なものから、脳浮腫、脳炎、脳出血などの重い副作用も懸念されます。保険上の適応病名は「回復可能な軽度認知障害(MCI)」ということですが、この程度ですとほぼ自立され正常に見える生活をしておられるので、これだけの大枚をはたいて治療される方がどれほどおられるのか疑問が残りますし、保険財政が心配になってきます。

つまるところ、今のところ実感を持って認知症を改善できる薬は無いというのが現場の感想です。しかしあきらめることはありません、実は薬よりも良い方法があるのです!意外かもしれませんが、それは皆さまがよく利用されているデイサービスです。その効果については次号でお話させていただきます。