食欲の秋、芸術の秋  …喘息の季節

寺岡内科医院 寺岡院長202110暑さ寒さも彼岸まで、少し涼しくなりました。いよいよ秋本番です。

秋といえば実りの季節。食欲の秋、芸術の秋、読書の秋などいろいろ表現されるのですが、底流は「収穫を喜び、気持ちの良い季節を楽しみ、来るべき厳しい季節への準備を始める。」ということでしょうか。人間は「食欲の秋、芸術の秋」などと表現するのですが、たぶん他の動物たちも同じ気分なんだろうと思います。

私の専門である喘息の方が増えてくるのがこの時期です。「咳」発作で半年ぶりに以前の薬が欲しいといってこられる若い方が大変多いのですが、このコロナの時代に「咳」の方がすぐに医院に入っていただいてよいか、毎日悩んでいるところでもあります。

喘息発作は梅雨の頃にも多いのですが、本当に多いのは10月、11月です。「すこしヒヤッとする感じ」の季節ですね。実はこんなときは副交感神経系が活発になっています。よく交感神経、副交感神経と並び称されるのですが、ひっくるめて自律神経といいます。私達の身体は放っておいても呼吸し、体温、脈拍、血圧を適当なように保ち、食べたものを消化吸収してくれています。こんな生命活動を指示しているのは脳の視床というところで、ここから自律神経が身体中に張り巡らされて、それが正しく働いていてくれているおかげで私達は生命を維持できているということに感謝したいと思います。

交感神経は活動するときに活躍する神経で、自動車でいうとアクセルであり、体温、脈拍、血圧が上がり、筋肉が緊張しやすく、脳も興奮状態になります。逆に副交感神経は休息するときの神経で、ブレーキ、メンテナンスにもたとえられます。体温、脈拍、血圧が下がり、筋肉がリラックスし、脳は鎮静化します。ですから交感神経は日中、夏冬、のもので、副交感神経は夜間、秋のものということが出来ます。こんな前知識を持っていただきますと、喘息のお話しはよく分っていただけると思います。

口から肺への空気の通り道はご存知のように気管支ということになりますが、この気管支の太さは一定ではありません。決論からいいますと日中は広く、夜間は少し狭くという変化を繰り返しているのです。理由はこうです。日中は活動するので酸素の取り込みが多く必要だが、夜間は休息の時間帯なので酸素は少なくてすむし、体温保存のためにも気管支が狭いほうが有利だというわけです。

これはメンテナンスですから副交感神経の働きということになります。気管支を狭くするために全ての気管支の周りには蛇がまとわり付いたような形の筋肉系があって、ここがギュッとしまれば細くなり空気は通りにくくなるのです。副交感神経が異常に働きすぎて絞りすぎれば呼吸できないことになり、この状態が喘息ということになります。ですから喘息発作は夜間、「すこしヒヤッとする感じ」の秋に多いというのも分っていただけたと思います。喘息は自律神経の異常でもあるのです。体質的に副交感神経系が活発な方、たとえば気配りの多い方、行動型というより物静かな方に多いのもうなずけます。

喘息はアレルギー疾患だと思っておられる方が多いと思いますが、アレルギー現象(花粉症、蕁麻疹、薬剤アレルギーなど)とは関係のない喘息も数々存在するものです。例えば運動によって起こる喘息、心理的ストレスから来る喘息、大笑いして起こる喘息などはどう考えてもアレルギーとは思えません。ただ「少しの刺激で気管支が過敏に反応してゼーゼー、コンコンが起こる。」というところでは共通するものがあります。現代の医学では喘息は「気道の過敏性」による「気管支の発作的収縮」が本質であって、アレルギーは多くある刺激の一つに過ぎないとされるようになりました。

繰り返しになりますが、この「気道の過敏性」を高めるのが秋の冷気に刺激された副交感神経というわけです。でも寒さが定着して冬が始まると、不思議なことに喘息発作は減ってくるのです。この辺がからだの不思議なところで、私なりの解釈としては「冬将軍という強敵に対して、戦いを挑む覚悟が出来る。」のだろうと思っています。この戦闘態勢こそ交感神経系の働きであって、血圧を上げ、筋力を高め、興奮し気力を上げたりしますが、一方で気管支を広げ呼吸しやすくなるという働きがあります。それが喘息には良いように働くのだと思います。