日本人の乳癌の傾向と対策

寺岡内科医院 寺岡院長
先月は日本人に多いガンということで、特徴的な胃癌、大腸癌についてお話をさせていただきましたが、もう一つ抜かせてはならないガン、乳癌について今回はお話させていただきます。

死亡数では欧米の半分以下となっていますが、発症率でいいますとこの30年で着実に増えてきており、1990年以降は日本女性で一番多いガンということになりました。

日本人に特徴的なのは欧米人にない45歳~49歳の間にピークがあるということで、人口10万人に対し200人もの若い女性がかかるということです。次のピークは同程度の頻度で60歳~64歳ですが、死ぬまで可能性がなくなることはありません。 女性の皆様は大変だと思います。    

日本の女性に多くなっている理由は乳房の構造にありそうです。
乳房は大きくいって乳腺細胞と脂肪から成り立っていますが、若い日本女性は乳腺細胞の割合が多いので乳癌になりやすいのだそうです。日本にはボインの人が少ないけれど、おっぱいはちゃんと出るのは乳腺細胞が多いからなのでしょうか。

国立がん研究センターの発表では乳癌の発生は東京都が突出しています。都市化、欧米化が影響していることが想像されますが、まず食事の影響について考えましょう。

ある研究によると、パン、コーヒーなどの欧米型の食事が多い人は和食型の人にくらべ1.3倍多いそうです。脂肪摂取が注目されるところですが、米国の調査から10歳から17歳の間に脂肪の多い食事を取った少女は成人後の乳癌の発症率が上がるという結果が出ています。

また牛肉や乳製品の影響も取りざたされています。これら食品により成長ホルモンと女性ホルモンの分泌が低年齢化し、生理の期間が長くなっているといわれます。初潮が早いほど、閉経が遅いほど乳癌発生率は高いことが知られています。その理由は乳癌は性ホルモンに感受性があり、女性ホルモンによって分裂が加速するからだと理解されています。日本人では肥満の人に乳癌が多いとされますが、皮下脂肪組織から女性ホルモンが多く分泌されていることを聴きますと納得できることではあります。

女性ホルモンで連想されるのは、植物性女性ホルモンともいわれるイソフラボンのことで構造式も非常に似ています。大豆に多く含まれるというあれです。

日本人は欧米人の700倍も大豆を摂っているそうですが、大豆製品をたくさん摂る人は発生率が30~40%減るそうです。おやっ逆ではと思われるかもしれませんが、その理由は女性ホルモン受容体にイソフラボンがくっついて本物の女性ホルモンがくっつくのを妨げるからだということになっています。 ひょっとしたらハゲの防止にきかないものでしょうかねえ。他にもイソフラボンは脳梗塞や心筋梗塞、骨破壊を防止してくれるといいますので、納豆や味噌汁はどんどん摂りたいものですね。但し塩分には気をつけながらですが。

ライフスタイルの欧米化、近代化によって変わったのは食生活だけではありません。男女同権思想にしたがって女性の夜勤者が圧倒的に増えました。

欧米にはCAさんは5倍も乳癌にかかりやすいと報告があります。欧州の一部の国では夜勤がつきものの看護師とCAの人が20年以上勤務した後に乳癌にかかった場合には労災補償の適用されるようになったそうです。

他に夜勤の被害としては糖尿病、高血圧、肥満、心臓病、うつ病なども報告されていて、理由は夜間に脳の松果体から放出されるホルモンであるメラトニンの分泌が明るい照明によって妨げられるからだとされます。(特にPCやスマホからのブルーライトが悪い。)メラトニンは日内リズム、生殖サイクル、ホルモン分泌、免疫などに深く関わっているホルモンですが、ガン抑制遺伝子にも影響があることが示されていますから夜勤とガンの関係は納得出来そうです。明るい間に働き、暗くなれば休むという生物本来のサイクルを外すということは無理があるのかもしれませんね。特に子孫を産み育てる女性には影響が大きいのだろうと想像します。

他にも運動不足でも乳癌が増えるという報告も多数あり、いかにも戦後の世相の変化が乳癌発生率に関係していることがよく分ります。

乳癌は増え続けているのですが、欧米に較べればまだまだ少ないうえに、治療の進歩によって治癒率もどんどん改善しています。Ⅲ期で発見されても5年生存率は80%です。表面に近い場所のガンで自己発見できる可能性も高いのですから、年齢に関わらず時々はチェックして見られることをお薦めします。