オプジーボは夢の新薬ではない?医療保険には重荷すぎる。

寺岡内科医院 寺岡院長
抗がん剤でなく、癌を治せるかもしれない免疫チェックポイント阻害剤=オプジーボを開発された本庶佑教授が昨年のノーベル医学賞を取られたことは、国民の一人として非常に嬉しく思いますが、少し調べてみると夢の新薬といえるものではないことに思いいたりました。そのわけを客観的にご説明したいと思います。

抗がん剤というのは手術の前か後に使ってがん細胞を縮小させるものですが、あくまで補助的であり、血液の癌である白血病以外では癌治療の第一選択は手術であることは世界の常識です。抗がん剤だけで治癒に至った例は世界中を見回してもありません。オプジーボは、手術が出来ない第4期(末期)の患者さんに抗がん剤よりも副作用が少なく生存率が高い、ということで保険採用されたお薬です。悪性黒色腫、手術できず抗がん剤も効かなかった第4期の肺癌、胃癌、腎癌、頭頚部癌、ホジキンリンパ腫、などに適応とされますが、適応があるといっても改善や治癒を保証するということではありません。添付文書にも「…有効性及び安全性は確立していない。」と記されているくらいですから。

一番多い肺癌についてメーカーが提出したデータにもとづいてご説明しますと…
オプジーボ治療のためには肺癌の中でもPDL-1、PDL-2という特殊蛋白が肺癌細胞表面上に出ていることが条件になります。これで80%がふるい落とされます。運良く(?)20%に入ればオプジーボ(O)治療が開始されます。効果を比較するために抗がん剤のドセタキセル(D)投与の場合の生存曲線が用意されました。どちらも24ヶ月たてば生存者は10%にまで減るのは末期ガンなので当然なのですが、そこにいたるまでの生存率がオプジーボ(O)で少し多いようなのです。

例えば12ヶ月後ではOでは50%、Dでは40%が生存、18ヶ月後ではOが40%、Dが20%という具合です。24ヶ月後ではどちらも10%です。 末期の肺癌と診断されて、「運よく」オプジーボ治療が始まった、と喜んだ患者さんの内の50%が生存できるのは12ヶ月、Dでは9ヶ月でした。2週間隔で42万円の薬が点滴され、この3ヶ月の生存のために使われる薬品代はなんと1年で1092万円となります。しかし2年経てばほぼ全員が亡くなるのです。結論は「少し延命する希望はあるが治癒させることはない。」とすべきです。これが厳然としたデータなのです。「夢の新薬」のイメージとはほど遠いといわざるをえません。

「夢の新薬」のイメージ造りに寄与したのが、腫瘍免疫という新しいメカニズムでした。癌細胞表面には遺伝子の変性で生じる変質たんぱく質が出てきます。同時にPDL1、PDL2というシグナルを立てます。変質たんぱく質をターゲットに癌細胞を攻撃しようとするリンパ球にはPD-1というセンサーが表面にあり、PDL1、PDL2を感じると攻撃するのをやめてしまいます。そこでPD-1を抗体でつぶすとリンパ球は癌細胞を攻撃し始めるというアイデアです。その抗体がオプジーボです。なにやら回りくどいお話でなかなか理解できませんね。

ところがPDL1、PDL2シグナルを立ててリンパ球の攻撃を免れている細胞がいたるところにあるのです。老化細胞です。正常細胞でも老化で変質たんぱく質を作ってくることがあります。こんな細胞も一緒にやられてしまうということで、心筋炎、骨髄破壊、肺炎、脳炎、肝炎など重篤な合併症が後になって出てくるのです。オプジーボでも半年で30%の人が亡くなるので、実際抗がん剤並みに副作用は多いようです。

いま日本では年間37万人もの癌患者が亡くなられます。仮に10%の方がオプジーボ治療を望まれるとしたら4000億円必要になります。保険による国民医療費全体が42兆円ですから、わずかな人の数ヶ月の延命のために膨大な医療費が費やされることになり、国民皆保険制度がさらに危うくなります。「夢の新薬」の幻想で超高額な医療費を費やすことは賢明ではありません。日本医師会も国民皆保険制度の維持を主張するなら、保険の財政基盤を危うくするような超高額で効果の不確実な治療薬の保険採用に、勇気をもって反対するべきだったと思います。ノーベル賞の歓喜に酔わず、マスコミも医療界も国民も事実を冷静に評価することを恐れてはならないでしょう。