肌と肌のふれ合いが、わが子を幸せにみちびく

寺岡内科医院 寺岡院長
先日、近畿医師会学校医会総会に出席しましたが、奈良医大の小児科の先生から感動するようなお話をいただいたので改めてご紹介させていただきましょう。

自閉症、注意欠如/多動症、学習障害を併せて発達障害といいますが、学校現場では全体で7~8%もいるそうで、大学でも大きな問題となっています。これだけ多いのですから社会全体で対応しなければならないということです。発達障害といっても、どこまでが正常でどこからが発達障害という切れ目はないそうです。例えば血圧のように低い人から高い人まであるわけで、どこから「高血圧」とするのかは便宜的であるのと似ています。要するに理解を深め偏見を持たず適切な対応をしましょうということですが、驚いたのは、これらの問題は赤ちゃんのときの肌のふれあい不足が原因ではないかというご指摘でした。

今回「ふれあい」についてお話します。オキシトシンというホルモンがあります。赤ちゃんがおっぱいを吸うと母親の脳で産生され、お乳の分泌を高め、子宮の収縮を促し回復を早めるホルモンとして知られていました。(赤ちゃんの泣き声を聴くだけでおっぱいがピューと出てくるのもこのホルモンのおかげです。)

最近このホルモンが母親と赤ちゃんが肌でふれ合うことによって産生され、両方に「愛着のこころ(愛情でしょうね。)」が生まれるということが分かって来ました。大事なのはその時期で、生後半年から2歳までの間に分泌細胞の数と感受性の脳細胞の数が決まってしまうということです。それはその後の人間形成に大きく影響します。「三つ子の魂、百まで。」どころではありません。生後半年から2歳までに充分なオキシトシンが出来るように育まれた赤ちゃんは、免疫力が高まり、情緒が安定し、オキシトシン反応としての愛を学ぶことが出来るようになります。ポーンとこの世に産み出されたた赤ちゃんにとって、母親はこの世で唯一信頼できる全知全能の神様みたいなもので、母親との関係が満たされてはじめて人間を信頼する心が生まれるといいます。そのあとで他の人間に関心を移せることが出来るそうで、その第一号が父親だといいます。それが社会性を学ぶ第一歩です。愛情深い両親が揃っていることが望ましい由縁です。

逆に不幸なことにこの大切な時期にネグレクトや虐待をうけて育った赤ちゃんは人間不信に陥ってしまいます。虐待を受けて育った親はその子を虐待する傾向があるといいますが、オキシトシンを考えれば納得できる話ではあります。赤ちゃんが人見知りをしないことを自慢する親がありますが、母親と他人の区別がゆるい、オキシトシンが少ないことを示す危険なサインかもしれませんね。

オキシトシンは赤ちゃんだけの話ではありません。お互い好意をもった大人でも肌がふれ合うとオキシトシンが分泌され親近感が生まれます。夫婦で手をつないで歩いているとオキシトシン濃度が上がるそうですよ。社会の中でも体がふれ合ってうまくいくということがいっぱいあると思います。それは仕事の成功にもつながってくるお話なのだろうと思います。

この講演で教わった驚くべき事実は、「自閉症、うつ、注意欠如/多動症などの発達障害の子供さんはオキシトシンの分泌が少ないのではないか。」ということです。赤ちゃん時代の母親との過ごし方がどれほど大切なことなのか誠に説得力のあるお話でした。

日本は少子時代です。むかしは考えられなかった子殺し、幼児虐待のニュースがあふれていますがオキシトシン不足の産物のように見えます。忙しすぎる日常、あふれる情報と娯楽、情より智の社会、孤立化、インターネット・スマホ文化、深夜遊びなど、現代の環境は女性にとっての本能すなわち子供を産んで全身全霊でいとおしむということを妨げているように思います。友達同士で遊んでいてもバラバラで、すぐにスマホに見入っている現代女性にはオキシトシンの香りはありません。子供には豊かな物質と教育を与えるだけでは不充分なのです。こころの栄養になる「肌のふれあい」がなくてはなりません。これから母親になろうという若い女性には「幼い頃、お人形さんを抱いて喜んでいた自分(本能)を思い出してください。」とお伝えしたいと思います。