高い医療費は副作用である

寺岡内科医院 院長の元気塾2024082024年4月から「高血圧の基準が変わった」とネット上、週刊誌で大きく取り上げられました。160/100mmHgに変更されたというのです。情報の発信元は皆さんが加入しておられる日本健康保険協会=協会けんぽのアナウンスでした。それによると、「160/100mmHgを超えたら放置しないで医療機関に診てもらうように」というお達しだったようです。

これまでは「高血圧症」の基準として140/90mmHg以上(自宅血圧は135/85mmHg以上)というのが長く使われてきました。これは世界保健機構(WHO)や厚労省、医学界が広く採用しているものですから、160mmHg説は国際基準に喧嘩を売ったことになってしまい、賛否両論上へ下への大騒ぎになってしまったのです。その後、協会けんぽ側は「高血圧症の基準を変更する意図で発信したのではなく、160/100mmHgを超えたら必ず受診しましょうという意味で発信した。」と弁明に追い込まれています。こうして二つの基準の間の「手打ち」がおこなわれ、医療としてはこれまでの高血圧の基準140/90mmHgを確認したことで決着したということですが、協会けんぽのお達しを逆取りして「160/100mmHgを超えなければ受診しなくてよいの?」という印象は残り、受診意欲に少なからず影響を与えそうです。

協会けんぽとしての本音は「これまでの高血圧の基準が低すぎるので、より多くの人が患者と見なされ、そのぶん医療費が増えてしまう。140mmHgより少しくらい高くても皆さん健康に暮らしておられるじゃないですか、もう少し基準を上げてもらって対象患者数を減らしてはどうでしょうか?」というところだと思います。協会けんぽは本当に困っておられます。

協会けんぽに加入されている方は、保険料として総 収入の10%(年間17.6万円/年)を支払っておられ、これ以上の保険料の負担はもう無理です。総収入は増えない環境にもかかわらず、医療の進歩で給付金は年々増える状況です。不要不急の出費は抑えてくれという協会の事情も良く分かります。

このアナウンスに対して医学界の反発は強いもので、「基準を上げると、高血圧で治療が必要な患者さんが来なくなり、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞、腎疾患が増え、返って医療費が高騰する。」と正論を展開したのです。これは本当に正しい見解なのですが、ただ裏には「患者が減ると医療機関の収入が減る。ひいては医局、学会を維持にも影響する。」という現実的な思惑も見え隠れします。「薬が売れなくなる」製薬業界への慮りもあったでしょう。結局は大方の正論に押し戻されてしまった形となりました。

両方の立場がよく分かる町の一医師として言わせていただきますと、これまでの140/90mmHg一辺倒には問題があると思っています。何故かといいますと、年を取るにつれて精神を含め体のすべての部分の柔軟性が低下することを我々は知っています。動脈も然りです。心臓からの拍動は動脈という壁に当たって流れてゆきます。その壁が柔軟性を無くしたらどうでしょう?当然はねかえりがきつくなって血圧は高くなります。これは人間が生きてゆく過程で当然起こってくる変化です。その年々でそれらしい血圧があるはずなのです。そう考えれば、140/90mmHg一辺倒でなくて、昔いわれていた年齢プラス80~90くらいの血圧が目標であって良いと思います。その方が健康保険財政にもプラスでしょう。なにせご自宅では病院より10mmHg(人によっては30mmHg)は低い方が圧倒的に多いのですから、病院での「高血圧」も信用できないところがあります。

医療というのは、効果と副作用を含めての効果判定が必要なことは自明です。この副作用の中に「費用」を加えてはいかがでしょうか。「効果の少ない医療費は副作用である」と置き換えれば、もう少し協会けんぽのいう160/100mmHg案は生かされて良いと思うのです。

私の方針は、高齢者がたまたま150/100mmHg付近になっても静かに見守るという方針です。
なるべく患者さんと健康保険の負担を増やしたくないのです。協会けんぽに限らずどこの健保組合も困っています。健康保険制度に支えられている日本の医療は世界最高です。健保制度を私たちの宝として大事にしてゆきましょう。


皆様はお気づきになっておられると思いますが、コロナ患者が増えております。
当院ではほぼ毎日1~2名の患者さんが見つかっています。
今週の発熱外来22名中9名の方が新型コロナ陽性でした。圧倒的に若い人が多くて2日ほどは38度台の高熱と軽い咳が続きますが、その後は熱や咳やのどの痛みはスーッと治ってゆくようです。まれには下痢、無臭、喉頭ヒリヒリの方もおられます。普通の風邪と変わらない印象なのでご安心ください。