この機会にデジタルとアナログを考えた

寺岡内科医院 寺岡院長202006最後まで東京、神奈川が残っていましたが、5月25日ようやく全国で緊急事態宣言が解除されました。自粛疲れでいやになっていましたが、何とか一筋の光明が見えたというところでしょうか。それでも新しい感染者は首都圏ではゼロにはなっていないのですね。中世のペストが流行ったときのままの隔離政策でようやく沈静化したわけですが、考えてみると免疫のない未感染者が圧倒的に多いわけですから、もし外国から感染者が入国して来たらまた爆発的な広がり=第2波、第3波がやってくることは避けられません。結局、60%の人が集団免疫を獲得するようになるまで流行は終わらないかもしれないのですね。NYのある調査では発病者の10倍の人が新型コロナウィルスに対する抗体=免疫を持っているといい、案外、集団免疫60%達成の日は遠くないのかも知れません。その仲介者は、未発症で行動自由の若者だったりして…。ワクチンや特効薬があればこんな心配もなくなるのですから、一日でも早い発見、発明を期待したいところです。聞くところでは全世界で2000のプロジェクトが動き出しているそうですから、日本の研究者の方々には是非頑張っていただきたいと願います。

この2、3ヶ月はわたしの医院もほんとに大変でした。普段なら熱や咳であればただのカゼで済んでしまうのに、宣言以後はコロナを疑って入場制限からしなければならなくなりました。診てあげたくてもコロナでない証拠が無いので、院内の患者さん、職員を守るために、電話で接触者相談センターに問い合わせていただくよう、残念な対応をしなければならないことも度々でした。ところがここがパンク状態で電話がなかなかつながらなかったようで、皆様には大変心細い思いをさせてしまいました。大変ご迷惑をおかけしましたことを心からお詫び申し上げます。でもこういう対応をさせてもらった方の中からPCR陽性者がお一人出たことをあとで知りました。

あちこちの医院で受診を断られて来られた患者さんのときなどは胸が詰る思いでしたが、一つ大きな収穫がありました。若い患者さんは大抵スマホを持っておられます。私と同じiPhoneが多いのが幸いでした。これなら初対面でもTV電話で院外から対面の受診が出来ます。顔が見えると相手のホッとした表情が伝わります。私としても相手の表情、顔色、つや、雰囲気から「まず大丈夫」と分ります。電話では決して得られない安心感です。その上で問診したり、呼吸音を吹きかけてもらったり喉の奥の映像を見せてもらったりすることで、通常の診察とまでは行かなくても、まずまず診断、投薬をし、患者さんに喜んでもらったというような場面が度々あったのです。今回の厄災から得た大きな教訓は、患者さんは医者と面と向って話しをし、「大丈夫」といってもらうことを望んでおられるんだということを発見したことでした。今回ほどスマホの有難さを感じたことはありませんでした。デジタル技術によるこころの交流でした。

このコロナ禍で世界の潮流が変わり、デジタル化への変化が一層加速するだろうといわれていますね。全ての個人情報を当局が把握し、ネットで行動を監視することによって感染縮小に成功した韓国を初めとして、ネット買い物、スマホ決済、ネットバンキング、テレワーク、オンライン飲み会など、当面のコロナ時代はネットが不可欠な技術のようです。

医療の世界でも電子カルテが当たり前になり、TV診療、個人情報のオンライン化が進みそうな予感がありますが、便利さと引き換えに生じる危険性も知っておかなければいけません。東日本大震災で全ての通信網が破壊されたときのことですが、電子カルテは当然ながらまったく役に立たず、結局紙カルテが役に立ったという経験からも、電気に頼り切った文化というのは非常に弱い側面があるのです。ですから紙と鉛筆のアナログ文化も衰退させてはならないでしょう。スマホニュースと新聞・書籍、テレビ会議と出張会議、ネットバンキングと通帳、メールとFAX、デジタル診断と医者の勘などの共存が必要です。結局、こころに届くハイテクノロジーを人間は求めているのです。その辺はアナログ的な日本人が得意とするところで、世界における日本人の存在意義だと思います。出番です。

居酒屋さんで距離を空けず語り合える日が来ることを楽しみにしています。