日本人のガンの特徴

寺岡内科医院 寺岡院長
今や日本人は一生の間に2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で死亡するといわれます。癌が死亡原因の第一位になってから4半世紀がたとうとしています。

戦後、肺炎や結核を初めとする感染症は予防法の発達や抗生物質の発展によって激減し、多かった脳卒中は食生活の改善、高血圧治療の発達でかなりのところまで制圧されたかに思えます。

平均寿命はいまや男性で81歳、女性で87歳と大国の中では世界一となりました。世の中が豊かになり、医学が発達したおかげでこれらの病気が駆逐され、残った癌が相対的に首位になったということですから、この現象は高齢化社会の宿命といえそうです。果たして癌は実数で増えているのでしょうか。人口10万人/年の死亡率で見ると、この50年の間に160人から130人に減っているのです。癌が多くなったように感じるのは早期発見と治療の発達によって長生きできる人が増えたことが大きいようです。

世界中を見回すとお国柄があって、日本は肺癌、胃癌、肝臓癌、大腸癌が多い国だといえます。
生活習慣病の一部と規定されている癌ですから、地域の環境、生活習慣、特に食生活、遺伝的背景などが複雑に絡み合っての結果です。ですから、なぜこの地域・国はこの癌が多いのかを調べれば、癌の予防にもつながりそうで興味は尽きません。今回は日本人に多い胃癌、急増中の大腸癌について考えて見ましょう。

まず胃癌です。ヘリコバクタ・ピロリ菌(HP菌)が胃潰瘍の原因であると発見されて以来、慢性萎縮性胃炎の原因でもあることが判明し、ここから癌が発生するのでHP菌が胃癌の大きな原因であると認められるようになりました。井戸水で育った日本人の50歳以上の人を中心に6000万人の人が感染しているとされ、HP菌に感染した人の胃癌発生率は未感染者の10倍にもなります。除菌後は1/3にまで減ります。

HP菌には東アジア型と欧米型がありますが、日本人のは毒性の強い東アジア型です。そこにタバコの影響が加わります。ご存知のようにタバコのタールは発がん物質の塊です。HP菌に感染している人がタバコを吸うと11倍の発ガン率になります。男性に胃癌が多いのも当然です。

というわけで研究者らは日本人の胃癌の6割がHP菌、3割がタバコのよるものと推定しています。
それに加えて塩分摂取の影響が加わります。秋田、新潟、山形で胃癌が多いのは塩分摂取量に比例してのことでした。また肉の食べ過ぎが悪いようで、毎日食べる人は4倍胃癌になりやすいといわれます。野菜・果物をしっかり摂ると25%発生率が減るそうです。アルコールはあまり関係がないようです。

大腸癌のお話に移ります。この癌は欧米に多いガンでした。ところが日本ではこの50年の間に男性の死亡率は10.9倍、女性では8.4倍も増え、世界のトップクラスに躍り出ました。
誰もが思い当たる原因は食の欧米化ですね。各国の肉の摂取量と大腸癌発生頻度を比較すると、ほぼ正比例の関係にあるのは驚きです。

理由は欧米食によって腸内細菌叢が変わるということのようです。日本人の腸内細菌叢は概して善玉菌が多いのですが、それは日本食の食物繊維が多いことと関係しているようです。
肉食が多くなると食物繊維が減り腸内細菌叢が変化し悪玉菌が多くなりガンの発生につながると想像されます。そこに飲酒とタバコの悪い要素が加わります。
元々日本人はアルコールに弱い人種ですが、日本酒にして一日2合以上飲む人の大腸癌は2倍に増え、そこに喫煙が加わると3倍に達するという報告があります。

もう一つ重要なのは肉体運動の問題です。立ち仕事の人とデスクワークの人を較べると、デスクワークの人の大腸癌の発生率は3倍にもなるという研究もあり、海外での研究と一致しています。大腸癌が増えてきたのは戦後事務労働が多くなり、自動車が普及してきた時期と重なることから、運動不足が大腸癌を誘導することは間違いないようです。理由はまだよく分っていません。とにかく大腸癌の増加は糖尿病の増加とも重なり現代社会への警告といえそうです。

国立がん研究センターが公表した日本人のためのガン予防法は以下の通りです。

  1)タバコは吸わない。
  2)他人のたばこの煙をできるだけ避ける。
  3)お酒はほどほどに。
  4)バランスの取れた食生活。
  5)塩辛い食品はほどほどに。
  6)野菜や果物は不足しないように。
  7)適度に運動。
  8)適切な体重維持。
  9)ウィルスや細菌の感染予防と治療。
10)定期的なガン検診。
11)異常に気がつけばすぐ受診。
12)正しいガン情報を得ること。

やはりガンは生活習慣病なのです。