身体の声に耳を傾けましょう(肌について)
私たちは周りで起きたことのすべてを視・聴・嗅・味の五感を通じて「脳」が情報を受け取り、脳で情報処理を行い、反応するのだと考えています。じゃあ「脳」とのないバイ菌のような原始生物はどうしているのでしょうか。彼らも餌を食べ、都合の良い環境に集まり、悪い環境は避けながらこれまで繁栄してきました。大きな目で見ると彼らも考え行動してように見えます。植物を見てください。毎年同じ季節に花を咲かせ、日光、風向きに合わせて樹勢を変えます。全身の細胞で感じ記憶し考えているとしか言いようがありません。私たちも1個の卵細胞から発生してきたのですから、全身の細胞で感じ考えるという伝統はどこかに受け継がれているはずです。
生物は細胞膜という境界で外界を分離して、その中で整然とした代謝を行う存在ですから、きっと生命が始まった時から、外界との接点である細胞膜には五感に近いものがあったに違いありません。人間に置き換えると肌の感覚ということになります。よく「肌で感じる」「肌になじむ」「肌が合う」などといいますが、直感を通した深い所の感覚のようです。それは買い物などで、手に取ってみないと気が済まないことにも表れています。体性感覚のうち肌の感覚がどれほど重要なのか、考えてみましょう。
まず赤ちゃんとして生まれると、温かい子宮からいきなり外界に放り出されることになります。寒くていきなり生命の危機です。なにも出来ません。そのとき温かく包んでくれる母親の温かい手が自分の命を守ってくれることを肌を通して知ります。命の恩人という深い感覚でしょう。この時に「オキシトシン」というホルモンが赤ちゃんと母親双方に分泌されます。このホルモンは母子の絆をきつく結びつける役割があります。大人でも肌をやさしく触れられたり、肌を寄せ合ったりするときの安心感はこれが大いに関係しています。残念なことに虐待を受けて育った子供、うつ的な人たちでは「オキシトシン」の分泌がよくないといいます。現代人は親子でさえ肌の触れ合いが減り、孤独な若者が少なくないように思いますが・・・そこで皮膚マッサージをするとどうなるか?・・・ご想像の通り「オキシトシン」が分泌されるのです。あちこちにエステの看板が立っているのも世相かもしれません。
信頼できる相手からマッサージを受けるのは非常に気持ちが良いものです。つい、うとうとしてしまいまいます。この時、血圧が下がり、心拍はゆっくり、筋肉は緩み気分もリラックスします。安らぎと回復の自律神経である副交感神経の働きです。腎臓の裏を軽くトントン軽くタッピングするのも良いそうです。すると体の深部体温が下がり自動的に眠くなるのです。以前に「ドクターフィッシュ」で書きましたが、魚でも患者の魚をひれでトントンと軽くたたいて癒しているそうですから、肌に優しく触れることは根源的な快感なのでしょうね。患者さんは安心感を求めてやって来られることが多いと思いますので、私も心掛けなければなりません。
さて、「鍼」「灸」のお話をします。西洋医学教育では「鍼」「灸」は科学的でないという理由で全く教わりません。従って保険医療には正式認可されていないのですが、実際多くの方が「効いている」とおっしゃいます。
1991年、アルプスの氷河から5000年前の生前の姿そのままのミイラが発見されましたが、彼の腹や腕にはあちこちに入れ墨で3本の短い線が描かれていました。彼は腰骨を痛めていて腰痛があったと思われていますが、驚いたことにこれらのマークは漢方の腰痛のツボと一致したのだそうです。5000年前から人類は知っていたのです。皮膚に金属のようなものを刺すと電気が生じます。その情報は神経か皮膚正面を伝わって脳にきます。これが刺激となって脳内神経ネットワークに変化を生じ、痛みを緩和したり、血流をよくしたりするのでしょう。このように科学的に考えても皮膚と脳は大きく影響し合っていると考えられます。「鍼」「灸」はますます国際的に評価されてゆくだろうと思っています。私は鍼灸には好意的です。